第五人格腐向け二次創作小説。探傭。現パロ。
ニンフ賞にも選ばれちゃう超人気俳優ノートン・キャンベルと謎のサバイバル系動画チャンネルの配信者ナワーブ・サベダー。
何もかも違い過ぎる世界で生きる二人の男が挑む1週間サバイバル生活切り抜きコメディ。
BL/現パロ/解釈その他諸々、何でも許せる方のみ自己責任でお読みください。アダルトも甘めもないけどそもそも探傭や二次小説が苦手という方はブラウザバックでお願いします。
↑上記をお読みいただき問題のなかった方のみ、以下から本編をどうぞ。↓
動画の冒頭は、大きなリュックを背負った二人の男が鬱蒼とした密林の中を奥の方へと進んでいく場面から始まる。
先を歩く男は背が低く、地面に置かれたローアングルのカメラからは殆ど背中のリュックしか映らない。
その後ろに続く男は対照的に背中のリュックもそれ程大きさを感じさせない程の恵まれた体格。リュック越しでも帽子を被った頭が余裕で見える。
何度か画面が変わって男たちは生い茂る草木をかき分け、小さな川に架かった丸太の上を渡り、密林の更に奥へと踏み入っていく。
そうして数分経過したところで漸く、動画のタイトルが表示される。
『The Mole’s One Week Survival Life with the Red Panda』
「どうも。こんにちは。ノートン・・・キャンベル、です。えーと、今日はですね、えーと、今、空港に向かってる、ところです」
タイトル画面が終わり暗転から切り替わった画面に映し出されたのは先程の背の高い方の男。
車の後部座席に座り、何度もカメラに目線をやりながら落ち着かない様子で今回の動画の概要を語っている。
緩いウェーブのかかったダークブロンド。まるでよく出来た石膏像のように精巧なその顔立ちは、左目を中心に広範囲を覆う痛々しいケロイド痕さえむしろその美しさを引き立たせるメイクのようで。そんな甘いマスクをカメラに近づけて画面いっぱいに映し出した日には、一瞬にしてコメント欄は黄色い悲鳴と救急要請(119)の投げ銭で埋め尽くされる。
そんな今、人気絶頂の有名俳優ノートン・キャンベルの個人チャンネルの最新動画はプレミア公開から僅か3分で同時接続者数50万越えという記録を叩き出した。
ノートンが俳優業の傍ら、ちょっとした息抜きにと動画サイトで個人チャンネルを開設したのは2年程前のことだ。
とあるドラマへの出演を切欠に急激に知名度が上がりはじめ、人気俳優の仲間入りを果たそうというそんな時期に個人チャンネルなどという危ういコンテンツに手を出すのは如何なものかと同業の先輩方からは苦言を呈され、事務所からも当然の如く止められた。
が、目先にぶら下げられた餌から簡単に目を背けられる程、ノートン・キャンベルという男は淡泊ではない。
今を時めく人気俳優がテレビや雑誌などでは決して語られないプライベートの姿を自ら赤裸々に晒していく、そんな面白コンテンツがウケない理由がないし、実際、ゲーム実況やら宅飲み配信で大量の投げ銭を貰い副業的に稼いでいる先輩たちも次々と出てきている。
何よりノートンが個人チャンネルに拘る理由は、「個人」のチャンネルであるということだ。
一個人が運営する個人的なサービス。つまりプライベートの一環。事務所から指示され芸能活動としてやる公式チャンネルと違い、個人なら事務所に介入されることもない。つまり、チャンネルで得た利益は全てノートンの懐に入るのだ。
好きなものが”富と名声”であると自負する程には欲深い守銭奴のノートンだ。上手くやれば莫大な利益を生み出せるかもしれないそんな夢とロマン満載のコンテンツに手を出さない筈がない。
しかし先輩業界人や事務所が危惧するように個人チャンネルの運営にはリスクが伴うことも充分理解していた。
動画の視聴者の9割は当然ノートンのファンということになるが、人気俳優のファンの嗅覚は侮れない。
住所や個人情報の取り扱いは勿論だが、もし万が一、スキャンダルに繋がりそうなアイテムが一つでも動画内に映りこめば瞬時に拡散、炎上し、それまでの努力も築き上げた俳優としての地位も、全てが一瞬で水泡に帰す。
運良く炎上を免れたとしても世間から疑いの目がなくならない限り長期間に渡って活動は制限されるし、それまでのようなオープンな動画内容はできなくなるだろう。そうなってしまえば最早チャンネル自体を続ける意味もなくなってしまう。
だからこそチャンネル開設には細心の注意を払っていたし、記念すべき最初の動画を投稿した時には何処かで自分の気付いていない情報が漏れて広まっていやしないかと、仕事の合間は常に動画のコメント欄をチェックしたりエゴサをしていた。
血眼になってスマホを操作するその姿は狂気地味て恐ろしいくらいだったと、後にマネージャーは語る。
しかし幸いにしてチャンネル開設から数週間が経っても憂慮していたようなトラブルは起きず、ノートン・キャンベルの個人チャンネルは投稿動画5本目で軽々と登録者数100万人を超えてしまった。
そもそも人気俳優としての今日に至るまでの道のりを考えれば、動画の1本や2本で問題など起きる筈もない。
自身が望むものを手に入れる為の綿密なプラン、徹底した準備、そして実現の為の弛まぬ努力・・・ 良く言えばストイックともされるその執着心があってこそ勝ち得たのが今の人気俳優としての地位なのだから。
無論、ここに至るまで障害となり得るものは徹底的に排除してきた。言い寄ってくる女優や女性タレントはうんざりする程いたが、その誰とも付き合うどころか極力接点を持たなかったのも、トラブルの種を作りたくなかったからだ。
そうした努力の積み重ねがチャンネルの成功に繋がったのだと、増え続ける登録者数と収益の画面を眺めながら高らかに笑った。
チャンネル開設から半年もした頃には登録者数の伸びも多少は落ち着いたものの減るような事はなく、依然右肩上がりを続けながらあっという間に1年が過ぎた。
動画の内容はというと、初めのうちは流行りのアプリで遊んでみたり、話題のスイーツの試食レポなど当たり障りのないものが多かったが、最終的には唯一の趣味である鉱石収集と紹介がメインコンテンツとなった。
食レポなどの流行りネタが尽きてきた頃、何気なく集めている鉱石(その時は視聴者が興味を持ちそうな綺麗な宝石をチョイスした)の紹介動画を一本上げたところ、これが思いの外好評で『もっと見たい』というコメントが殺到したのだ。
ノートンの趣味が鉱石収集だというのは雑誌のインタビューなどでも何度か語っていてファンの間ではよく知られていたが、実際にそれを披露してみると単なる趣味には留まらない知識と熱量。その意外性にファンたちも驚いたらしい。
何より、元々カメラの前では常にボロを出さないようにと猫を被り優等生的な振る舞いをするノートンが、鉱石について語る時だけ饒舌になり、少年のようにキラキラと眼を輝かせるその姿に新たなファンが急増したという。
それ以後、テレビや雑誌では見られないノートンの自然体で意外な一面をもっと見たいと渇望する声に後押しされ、鉱石に関する動画の投稿は次第に増え、現在では2本に1本はそれというチャンネルの目玉となっていった。
手元にある鉱石の紹介や解説だけでなく、海外ロケの合間に地元の店や宝石市場を覗いて気に入った石を購入する様子なども撮影して動画に載せてみると、これがまた視聴者にヒット。
チャンネル開設当初こそ副収入目当てで動画を上げていたが、自分の趣味嗜好が他人に受け入れられ「面白い」と言われる快感を知ってからは、ノートン自身も俳優としての仕事を一時忘れ本来の自分を解放できるちょっとした気晴らしとして動画投稿を楽しめるようになってきていた。
そしてチャンネル開設から1年を過ぎたある日、とある一人の視聴者が残したコメントから、ノートンは動画チャンネルと自身のその後の人生を大きく揺るがす運命的な出会いを果たすことになる。
『このch知ってる人いる?ここ絶対好きだと思う→17:22』
『知ってるー!』
『同じこと思ったwノトキャ見た方がいいよ』
そんな事を複数の視聴者から言われては見ない訳にもいかず、風呂上がりのリラックスタイムにエゴサする手を止めて貼られたリンクをクリックする。
別窓が開きいつもの動画サイトのページが表示されると、一瞬の読み込みの後にすぐ動画が再生された。
指定された時間のシーンには、どこかの川に膝まで浸かり川底を漁る男の姿が映し出されていた。
長めの茶髪を一括りにした男は小柄だが引き締まった体つきで、Tシャツの袖口から伸びる腕にはいくつもの細かい傷跡が見てとれた。
一目でわかるその如何にもアウトドア系といった出で立ちとロケーションから、どうやら流行りのサバイバル系動画のようだと察した、
「最近よく見るなぁ、こういうの」
PCデスクの傍らに置いたミネラルウォーターのボトルを取って一口飲み、男の行動を眺める。
何か喋ったりカメラに目線を向けるような事もなく、ただ黙々と川底を漁っては適当な大きさの石を拾い上げて岸へ投げる。その繰り返し。
恐らくサバイバル生活に必要な素材を集めている場面なのだろうが、あのコメントを残した視聴者はこの動画のどこにノートンの気に入る要素があると思ったのだろうか?
そんな風に訝しみながらも5分程成り行きを見守っていた、その時、ふと男の動きが止まった。
カメラからではよく見えないが、何やら拾った石を手の中で転がしたり、太陽にかざしたりしている。
もしや、という予感に背もたれに預けていた身体を起こしてPCの画面に顔を近づける。
男は先程の石を手に持ったまま、ザブザブと川の中を歩きカメラへ近付いてくる。
男の濡れたブーツが河原の石に跡を残しながらカメラの前まで歩いてきたかと思うと、一瞬画面が揺れて次の瞬間、それまで遠くにあってよく見えなかった男の顔が初めてカメラの前に大きくハッキリと映し出された。
どこか幼くも見えるアジア系の丸みを帯びたその顔貌に似つかわしくない口角の痛々しい縫い痕。やや下がり目で重たそうな瞼の下から覗く青緑の瞳。
ノートンがその男の顔に気を取られ呆然としていると、男は自分の顔を隠すように手にしていた石をカメラの前に持ち上げて見せた。
映し出された石は野球ボール程の大きさで一見どこにでも転がっているような普通の石に見えた。が、男が持っていた手を捻ってくるりと石を回転させると、僅かに割れて欠けた石の内部に何かがキラリと光った。
「・・・ジオード」
ノートンが無意識にそう口にしていたのと同じタイミングで、コメント欄にも「晶洞だ!」「ジオードだ!」「すげー!」といったコメントが殺到していた。
無論、鉱石採集が趣味のノートンがそれを知らない訳がない。主に堆積岩などで形成され空洞化した内部に結晶を持つ特殊な石。極めて稀ではあるが火山の麓や河原などでも発見され、一般的に”ジオード”、日本では”晶洞”とも呼ばれているらしい。
男は手にしたジオードを角度を変えたりしながらしばらくカメラに映した後、それを引っ込めるとズボンのポケットに仕舞う。
それからまたカメラを元の位置に戻すと、また何事もなかったかのように川へと入っていき、川底を漁る作業を再開した。
確かに。これは確かに、あの視聴者たちがコメントしていたとおりノートンが”絶対見た方がいい”動画に違いなかった。
その後、残り10分程度を最後まで視聴してみたのだが、結局あのジオードはあれきり一度もカメラの前に出てくることはなく、概要欄などを見てもその後あれがどのように処理されたのかどこにも書かれていなかった。
「えぇ~・・・あのジオード、どうしたんだよ?」
気になってその後に投稿されていた最新の動画も観てみたのだが、やはり男が淡々とサバイバルする姿が流れるだけで、あのジオードがどうなったのかを示す情報はない。
ノートンと同じようにジオードのその後についてコメント欄で訊ねる者もちらほらいたが、男からの返事はされていなかった。そもそもコメントに対して応答しない主義なのか、ジオード関連以外のコメントにも返信やイイネがされた様子が一つもない。
過去の動画を漁ってみても似たような内容ばかり。毎回30分前後の尺でBGMもなく、ただ只管に男がサバイバル生活を送る様子が流されるだけ。一人で撮影しているのかカメラの位置も雑で、たまに作業している男の姿が見切れてしまっていることもある。
また、男自身に特別な魅力があるのかと言えばそうでもない。とにかく無口で喋るのは何本かに1度、決まって『腹減ったな・・・』という一言のみ。
見所があるとすれば唯一つ。ナイフ一本で道具から小さな小屋まで様々なものを作り出したり、あらゆる植物や野生動物を採って食料に変え、生きる為に活かす圧倒的なサバイバル能力の高さだ。
「……何なんだ、この人」
サバイバル能力の高さだけではない男のよくわからない魅力に惹きつけられチャンネル登録をした視聴者が実に30万人。
気が付けばノートンもその内の一人となり、翌日のスケジュールも忘れて朝方まで男の動画を第1回から順に視聴してしまっていた。
動画の主役である男の名前すら誰も知らない。
わかっているのはタイトルとレッサーパンダのアイコンだけという謎のチャンネル、”Red’s Survival”。
ノートンはこのチャンネルの存在を知った1週間後、チャンネル管理者の連絡先にコラボをしないかというオファーを送り、その日のうちに快諾の返事を貰った。
だがしかし、押しも押されもせぬ売れっ子俳優のノートンのスケジュールは既に1年先までぎっちりと埋まっており、最低でも1週間を要する海外でのサバイバルロケなどそう簡単に実現できる筈もない。
結局、DMによるやりとりと準備期間を経て、ノートンがその男、ナワーブ・サベダーと直接対面したのは、あのジオードの動画を見た日から実に1年3か月後。
ノートンがあの世界的な映画の祭典で主演男優賞という役者として最高峰の栄誉を掴み取った、その直後のことだった。
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